登記識別情報(権利証)を失くしてしまったら?
〜司法書士が教える安心ガイド〜

Shiho-shoshi

皆さん、司法書士の小椋です。今日は私の事務所でよくある質問についてお話しします。

あの日の相談者

「先生、これが登記識別情報というものですか?思ったより普通の紙ですね」

先日、新居を購入された佐藤さん夫妻が事務所を訪れました。登記完了後、私は通常通り登記識別情報をお渡しする際の説明を始めました。

「はい、これが登記識別情報です。平成17年3月の不動産登記法改正以降、従来の権利証に代わって発行されるようになりました。この書類は大変重要ですので、できれば金庫など安全な場所に保管してください」

佐藤さんは書類を手に取りながら真剣に聞いています。

「そして、重要なポイントなのですが、この登記識別情報は万が一紛失してしまうと再発行されません」

その瞬間、佐藤さんの表情が変わりました。

「え?再発行されないんですか?じゃあ、もし無くしたり盗まれたりしたらどうなるんですか?」

この質問、実は多くの方から受けるものなんです。今日はこのテーマについて詳しくお話ししましょう。

登記識別情報とは何か?

まず基本的なことから。登記識別情報とは、あなたがその不動産の名義人であることを証明する「証拠」です。平成17年3月以前は「権利証」と呼ばれる書類が発行されていましたが、現在はこの登記識別情報に変わりました。

この書類があれば、将来土地や建物を売却したり、銀行から融資を受けて抵当権を設定したりする際に、法務局があなたを正当な名義人として迅速に認識できます。言わば「本人確認のショートカット」なのです。

紛失しても権利は消滅しない

佐藤さんが心配されていたように、「紛失したら権利がなくなるのでは?」と不安に思われる方は多いです。

でも、安心してください。登記識別情報を紛失したからといって、あなたの権利が消滅したり、名義人でなくなるわけではありません。権利そのものと、それを証明する書類は別物です。

私はよくこう説明します。「結婚指輪を無くしても結婚が無効になるわけではないのと同じです」と。

では、紛失したらどうする?

佐藤さんは少し安心した様子で、次の質問です。

「それでも、何か不便なことがあるんですよね?」

はい、確かにあります。登記識別情報がないと、不動産取引の際に一手間と費用がかかることになります。対応策としては主に2つの方法があります。

1. 法務局の事前通知による方法

この方法は、登記申請をいったん仮受付してもらい、法務局から名義人に対して本人確認の照会が行われます。名義人がそれに適切に応答すれば、正規の登記申請として処理されます。

佐藤さんは「それなら費用もかからなくて良いですね」と言いましたが、ここで重要な点を説明しました。

「確かに追加費用はかかりませんが、大きな弱点があります。登記申請の時点では本人確認がされておらず、確実に名義変更ができるという保証がないのです」

例えば不動産売買の場合、買主は売主に登記識別情報を含む必要書類を受け取った後で代金を支払うのが一般的です。しかし事前通知の場合、申請時点で本人確認ができていないため、買主や融資する銀行は不安を感じることになります。

佐藤さんは「確かに、そうですね。高額な取引なのに、確実性がないのは怖いですね」とうなずきました。

2. 資格者代理人・公証人による本人確認制度

そこで登場するのが、司法書士や弁護士、公証人などの資格者による本人確認制度です。

「私たち司法書士が名義人と直接面談し、運転免許証などの身分証明書や印鑑証明書で本人確認を行います。そして作成した書類に実印を押して内容を保証するのです」

この方法であれば、登記申請前に登記識別情報の代わりとなる書類を用意できるため、取引の安全性が確保されます。ただし、司法書士などへの手数料が別途発生します。

佐藤さんは理解した様子で「つまり、登記識別情報があれば一番スムーズだけど、なくても方法はあるということですね」と言いました。

結局のところ

説明を終えると、佐藤さんは登記識別情報を大切そうに扱いながらこう言いました。

「よくわかりました。これは本当に大切に保管します。金庫を買おうかな」

私は笑顔で答えました。「はい、それが一番です。権利証時代からよく言われていますが、重要書類は『火事と泥棒と所有者に気をつけろ』ですね」

佐藤さんも笑いながら「所有者って私のことですか?」と冗談を返してくれました。

結局のところ、登記識別情報は再発行されない大切な書類です。紛失しても権利そのものは失われませんが、将来の取引をスムーズに進めるためにも、大切に保管することをお勧めします。

万が一に備えて対応策を知っておくことは大事ですが、そもそも紛失しないことが最善の策なのです。

皆さんも、登記識別情報の取り扱いには十分注意してくださいね。

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