子のない夫婦の難しい相続の実例
相続トラブルを解決するには何より熱意が大切!

Shiho-shoshi

こんにちは、司法書士の小椋です。今日は「難しい遺産分割の協議を成功させるには」というテーマでお話しします。

意外と知られていない相続の基本

皆さんは相続人の順位をご存知でしょうか?民法では次のように定められています。

  • 第1順位:子
  • 第2順位:直系尊属(親・祖父母など)
  • 第3順位:兄弟姉妹

そして、配偶者はこれらの相続人と共に常に相続人となります。

意外かもしれませんが、遺産分割協議で最も困難を伴うのは兄弟姉妹が相続人となるケースです。これは多くの場合、子のない夫婦のいずれかが亡くなった時に起こります。

実は今でも、
「夫が亡くなったら自分だけが相続人になる」と思い込んでいる妻、
「妻が亡くなったら自分だけが相続人になる」と誤信している夫は少なくありません。

全く交流がなく、存在すら忘れていた配偶者の兄弟姉妹、さらにはその兄弟姉妹が既に亡くなっている場合は、その子(甥や姪)まで相続人になることなど、考えてもいなかったという方も多いでしょう。

しかし、法律の規定ではそうなっています。だからこそ、特に子のない夫婦は、互いに遺言を残しておくことが遺された相手への愛情の証だと私は思います。

「自分だけの問題」と思っていませんか?

現実には、まだまだ遺言書を残すことに抵抗を持つ方が多いのが事実です。特に女性に比べて男性の方が「自分の死を意識したくない」という傾向が強いように感じます。結果として、奥さんが困ることになるのに…。

そこで今日は、実際にあった事例をご紹介します。

見知らぬ親族との協議を乗り越えた小林さん一家の物語

10年以上前、相続登記のご依頼をいただいた小林秋子さん(78歳・仮名)の事例です。

秋子さんは、前夫との間に一人息子の太郎さん(仮名)がいましたが、再婚相手の小林勝さん(80歳)との間には子どもがいませんでした。小林勝さんは一時太郎さんを養子にしましたが、些細なことから仲違いして離縁してしまいました。つまり、法律上は「子のない夫婦」の状態だったのです。

小林夫婦は勝さん名義の家で長年暮らしてきましたが、ある日勝さんが亡くなりました。秋子さんは自宅の名義を自分に移すために、息子の太郎さんと共に私の事務所を訪れたのです。遺言書はありませんでした。

まず私たちは、勝さんの直系尊属(親や祖父母)が生存しているか確認しました。勝さんは80歳とはいえ、ご両親が生きている可能性もゼロではないからです。戸籍を辿った結果、直系尊属は全員既に他界していることがわかりました。

次に勝さんの兄弟姉妹を調査しました。すると、勝さんには実の兄が3人いた上に、勝さんの父親が再婚者で、前婚の妻との間に子が3人いることが判明したのです。つまり、勝さんは4人兄弟の末っ子であると同時に、腹違いの兄弟が3人いる計7人兄弟だったのです。

調査の結果、6人の兄弟は全員既に他界しており、それぞれの子(勝さんの甥姪)が全部で10人、うち生存している7人が相続人であることが明らかになりました。

ここからが大変でした。秋子さんは、亡き夫の甥姪たちと一人も面識がなかったのです。しかも、7人の住所は1人が相模原市、2人が長野県、4人が新潟県と遠隔地に散らばっていました。

「名義変更のためには、この7人全員と話し合い、協力を得る必要があります」

このとき、私自身も正直「無理かもしれない」と思いました。

あきらめない心が奇跡を生む

ところが、秋子さんは諦めませんでした。息子の太郎さんは、高齢の母親に代わり、仕事の合間を縫って7人の相続人との連絡・交渉を続けました。番号案内で電話番号を調べるだけでなく、直接市役所に出向いて事情を話し、協力を求めるなど、あらゆる手を尽くしたのです。

数か月後、太郎さんから嬉しい電話がありました。

「皆さんから同意してもらえました。母への名義変更手続きをお願いします」

このときの太郎さんの晴れ晴れとした声は、今でも忘れられません。太郎さんの母を思う気持ちが、見ず知らずの相続人たちの心を動かしたのです。

もし7人のうち一人でも話し合いを拒んでいたら、調停を申し立てるしかなく、時間と費用をかけても秋子さんの希望が叶う保証はなかったのですから、本当に良かったと思いました。

相続協議成功のカギは「当事者の熱意」

この例はある意味極端なケースですが、見ず知らずの相続人との協議が必要になる案件は時々あります。そのような場合、司法書士は直接各相続人と交渉することはできません(弁護士法に違反するため)。

しかし、各相続人の住所をお知らせしたり、誰にどのように連絡すれば良いかなど、良い結果につながる手順をアドバイスすることは可能です。実際、私の事務所では多くの成功事例があります。

ただ、全ての成功事例に共通するのは、小林さんのように「ご本人が熱意をもって取り組む」ことです。

不思議なことに、周りの親族ばかりが熱心で、名義を受け継ぐべき当の本人が積極的に関わらないという場合も少なくありません。例えば、夫名義の自宅建物の敷地が夫の父親名義のままになっている場合、敷地の相続に夫が積極的に取り組まず、妻だけがやきもきするケースが時々あります。

このような場合、残念ながら問題は全く解決せず、そのまま時が過ぎるばかりです。

諦めなければ道は開ける

どんな困難な状況でも、諦めなければ活路が見いだせることは相続問題でも同じです。名義を受け継ぎたい当の本人が現実を直視し、前向きに取り組むことが何より大切です。

もしあなたの周りに遺産分割の話し合いで困っている方がいたら、「諦めずに司法書士に相談してみて」と勧めてあげてください。案ずるより産むが易しと笑える日が来るかもしれません。

過去の経験から、人の熱意は必ず相手に通じると私は信じています。そして、子のない夫婦は特に、お互いのために遺言書を残すことを検討してみてください。それは残される配偶者への最後の愛情表現になるのですから。


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