見知らぬ司法書士からの突然の手紙
ー ある相続トラブルの一例

Shiho-shoshi

「大した財産はないから…」そう思っていた日常が一変した日

小田原市に住む田中誠一さん(仮名・61歳)は、平凡な毎日を送っていました。30年前、父親の土地に家を建て、両親と同居しながら、妻と共に年老いた両親の面倒を見てきました。特に妻は、長年にわたって田中さんの両親の介護に献身してきました。

「うちは大した財産がないから、相続で揉めることはないだろう」

多くの人がそう考えるように、田中さんもそう思っていました。現金や株式などの資産はほとんどなく、あるのは自宅の土地と建物だけ。それが相続問題になるとは考えもしませんでした。

昨年、90歳で父親が亡くなり、田中さんは建物の敷地の名義を父親から自分に変更したいと考え、私の事務所を訪れました。母親はすでに同意しており、近県に住む妹とは具体的な話はまだしていないものの、兄妹仲が良好なので問題ないだろうとのことでした。

遺言書はなかったため、母親と田中さん、そして妹さんの三者による協議で名義変更をする必要があることを説明し、必要書類の準備についてアドバイスしました。

予期せぬ内容証明郵便

数ヶ月後、田中さんから焦った様子で電話がありました。

「見知らぬ司法書士事務所から内容証明郵便が届いたんです。どうすればいいでしょうか…」

その手紙は、田中さんの妹が依頼した東京の司法書士からのものでした。手紙には、「2週間以内に父親の遺産全部の目録を作成し、司法書士事務所宛に返送するように」と書かれていたといいます。

田中さんは明らかに動揺していました。何の前触れもなく、突然、見知らぬ司法書士事務所から、まるで法律上の義務であるかのような文面で内容証明郵便が送られてくれば、誰でも心穏やかではいられないでしょう。

手紙の真の意図

私はその手紙は無視しても問題ないことを田中さんに伝えました。父親の遺産は田中さん宅の敷地以外にほとんど何もないことはすでに把握していたからです。

少し専門的になりますが、不動産の名義人が亡くなった場合、名義変更が完了するまでは、その不動産は共同相続人の共有状態になります。田中さんの場合は、母親、田中さん本人、そして妹さんの三者による共有状態です。この共有状態は、預貯金やその他一切の財産についても同様です。

共有状態では、共有者のうちの誰も、独断で遺産を処分することはできないというのが建前です。しかし現実には、共同相続人のうちの誰かが遺産を実質的に管理しているような場合、その相続人が遺産を横領する可能性がないとは言えません。

この事例に当てはめると、父親の遺産に預貯金などが相当額含まれている場合、同居している田中さんが父親の預金を勝手に解約して自分のものにしてしまう可能性を妹さん側は懸念し、「遺産にどんな財産があるか、その目録を出せ」と要求してきたのでしょう。

これは遺産争いの当事者から依頼を受けた弁護士がよく取る方法で、その司法書士はそれを真似ているのだと感じました。しかし、このようなやり方は適切とは言えません。

法律家の驕り

そもそも、司法書士が遺産争いに介入すること自体、司法書士の職域を越えて弁護士法違反の可能性があります。また、文面から受ける印象も挑戦的で不快です。

法律家として依頼者の利益を優先するとはいえ、一般の方に対して法律の権威を振りかざし、法律上義務付ける根拠もない「財産目録の作成」を命じるのは、一部の法律家の驕りと言わざるを得ません。

事実、田中さんもその手紙を受け取ったとき、自分が何か悪いことや法律違反をしているような気がしたと言っていました。しかし、土地の名義は、たとえ実質的に管理している人でも、勝手に自分のものにすることはできません。

解決への道

田中さんからの連絡を受けた私は、迷わず家庭裁判所への調停申立てをお勧めしました。

後日、調停の結果、無事に田中さんへの土地の名義変更が認められました。名義変更手続きの依頼のため、調停証書を持参してくださった田中さんの表情は、晴れやかなものでした。本当に良かったです。

皆さんへのアドバイス

この事例がお役に立てば幸いです。もし、あなたのもとにある日突然、見知らぬ弁護士や司法書士から手紙が届いたとしても、警察や裁判所から送られてきたものと同じようにどきどきする必要はないかもしれません。

対応の仕方がわからない場合は、専門家に相談することをお勧めします。相続は、たとえ「大した財産がない」と思われる場合でも、予想外のトラブルを引き起こすことがあります。特に家族関係が複雑な場合は、早めに専門家に相談することで、スムーズな解決につながります。

私の事務所では、このような相続問題に関するご相談を随時承っております。どうぞお気軽にご連絡ください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました