相続手続のスムーズな進め方
司法書士の小椋です。
日々の業務の中で、ご家族を亡くされた方からの相談を多くお受けしています。
先日、ご主人を病死で亡くされた奥様からご相談を頂きました。ご主人ははまだ60歳代でしたが、急死してしまい、何から手を付けてよいのかが判らず困っておられるご様子でした。
相続手続きは多岐にわたり、初めての方にとっては複雑で煩雑に感じられるでしょう。死亡届の提出から始まり、年金や健康保険、生命保険の請求、税金関係の処理など、やるべきことが山積みです。
遺産相続に関しても、土地・建物、預貯金・有価証券、生命保険金・退職手当金、ゴルフ会員権など、様々な財産の名義変更が必要になります。さらには、お墓の手続きなども必要となります。
このように複雑な相続手続きを少しでもスムーズに進めるために、今回は司法書士としての視点から効率的な進め方をアドバイスさせていただきます。
相続手続きは土地建物の名義変更から始めましょう
多くの方が最初に取り組むのは、銀行や郵便局での預貯金の名義変更手続きです。これは一見理解しやすく、進めやすいように思えますが、実はあまりお勧めできない方法なのです。
なぜなら、預貯金の名義変更には各金融機関ごとに手続きが必要で、提出する書類も微妙に異なることがあります。複数の銀行や証券会社と取引がある場合、同じ戸籍謄本や印鑑証明書を何部も用意しなければならないと思われがちですが、これは全く無駄なことなのです。
私からのアドバイスは、可能であれば不動産の名義変更(相続登記)から着手することです。
その理由は明確です。相続登記に必要な書類一式は、その後の銀行、郵便局、証券会社での手続きにも全て使用できるからです。
相続登記に必要な書類の意味
相続登記に戸籍謄本や印鑑証明書などが必要なのは、次の2つの事実を証明するためです:
- 亡くなった方(被相続人)を相続する権利のある人(相続人)が誰かということ
- 遺産分割協議を相続人全員で行っていること
例えば、妻子のある人が亡くなった場合:
- 亡くなった人の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)で、妻が相続人であることは証明できますが、子が既に結婚して除籍になっているのであれば、子の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)も必要になります。
- また、遺産分割の協議を妻子で行ったことを証明するだけでなく、他に相続人がいないことを証明するために、亡くなった人の出生に遡る除籍や改製原戸籍の謄本も添付します。
これらの書類によって、不動産の名義を正当に受け継ぐ人が特定されます。そして、預貯金や有価証券の名義を正当に受け継ぐ人を特定するのにも、同じ証明が必要なのです。
効率的な手続き方法
当事務所では、相続登記の添付書類を全てまとめて「相続関係書類」という厚紙でできた表紙を付けて法務局に提出し、登記手続き完了後に返却してもらっています(「原本還付」と呼ばれる手続きです)。
この一式の書類を、そのまま銀行などに持参すれば、そこでの手続きも完了させることができます。法務局という国の機関が確認した証明書類ですから、何かが不足しているということはあり得ません。
実際、銀行の支店での手続きに持参すれば、銀行員がその場で必要な部分のコピーを取り、冊子ごと返却されますので、その後も別の銀行や郵便局での手続きを順次容易に行うことができます。
つまり、戸籍謄本や印鑑証明書等は1セットで十分なのです。
古い戸籍謄本は1通750円もしますから、何部も取ると費用も馬鹿になりません。これは意外と知られていない事実です。
注意していただきたい点
ごく少数ですが、一部の証券会社では戸籍謄本等の原本を保管するところもあるようです。事前の確認が必要であり、そのような場合は、その証券会社の手続きを最後にすれば良いでしょう。
銀行や信用金庫、郵便局では、返却を求めていれば戸籍謄本等の原本自体を取られることはありません。
自分で手続きを行うか、専門家に依頼するか
「煩雑な手続きは苦手だから、不動産の名義変更だけでなく、預貯金の手続きも含めて一切の相続手続きを依頼したい」というご要望も時々いただきます。
確かに、「全部おまかせプラン」などの名称で、相当な手数料報酬を得て預貯金の手続きまで代行している司法書士もいます。また、銀行の窓口でもそのような司法書士や行政書士を紹介しているところもあるようです。預貯金の名義変更だけでも約10万円の代行手数料がかかることもあるようです。
しかし、知っておいていただきたいのは、預貯金や有価証券の名義変更を代行するのに国家資格は必要ないということです。法務局での登記手続きの代行に司法書士資格が必須であるのとは異なります。
多忙で時間がない、費用がかかっても良いとお考えの方もいらっしゃるでしょう。しかし、「こんなに簡単だったのか」と後で感じられることも少なくありません。
今日のポイント
「できるなら先ずは、土地建物の名義変更(相続登記)から始めよう!」
この点を覚えておかれて損はないと思います。相続手続きを少しでも効率的に、そして無駄なく進めるためのポイントとして、ぜひ参考にしていただければ幸いです。
大切な方を亡くされた悲しみの中での手続きは大変ですが、一つ一つ丁寧に進めていくことで、故人の遺したものを適切に引き継ぐことができます。何かお困りのことがあれば、司法書士にご相談いただくことも大切です。
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