住宅ローン完済後の”忘れ物”に要注意!
~抵当権抹消登記の重要性~

Shiho-shoshi

こんにちは、司法書士の小椋です。今日は住宅ローンにまつわる意外な”落とし穴”についてお話しします。

田中さん家の喜びと驚き

「やったー!ついに住宅ローン、完済しました!」

田中さゆりさんは、夫の康太さんと一緒に20年がかりで支払ってきた住宅ローンをついに完済し、銀行から送られてきた「完済証明書」を手に喜びを爆発させていました。

「これでやっと本当にマイホームが私たちのものになったわね!」

そう思っていた矢先、親戚の法務局勤務の叔父から思わぬ質問をされます。

「住宅ローン完済おめでとう!それで、抵当権の抹消登記はもう済ませたの?」

「抵当権の抹消…って何?ローンを払い終わったら、それで全て終わりじゃないの?」

田中さんの疑問、実はとても多くの方が抱える疑問なのです。

抵当権設定登記とは?~気づかない間に行われている大切な手続き~

住宅を購入するとき、多くの方は銀行などから資金を借り入れます。このとき、住宅(建物とその敷地)に「抵当権」という権利を設定し、その登記をします。これが「抵当権設定登記」です。

この登記は、お金を貸した銀行のために行われるもの。もしもローンの支払いが滞った場合、銀行は裁判所に競売を申し立て、その不動産を売却して貸したお金を回収することができます。

驚くことに、多くの住宅購入者はこの登記手続きをはっきり意識していません。なぜなら、住宅購入時に分譲業者や銀行が全ての手続きを進めてしまうからです。特に新築住宅の購入では、買主が直接司法書士と対面することはほとんどありません。

でも実際には、あなたが署名した委任状などの書類は、分譲業者や銀行を通じて提携司法書士の手に渡り、その司法書士があなたの代わりに登記を申請しているのです。

抵当権抹消登記~ローン完済後の”宿題”~

「じゃあ、ローンを完済したら、また銀行が手続きしてくれるのよね?」

残念ながら、そうではありません。これが今日の本題です。

抵当権登記の消し忘れにご注意ください!

住宅ローンの返済が終われば、抵当権はその役割を終え、不要になります。そこで「抵当権抹消登記」という手続きが必要になるのです。

この抹消登記は、設定登記と違って、土地建物の所有者(つまりあなた)のためにする登記です。そのため、放っておいても銀行が勝手に手続きを進めてくれることはありません。

「なんで銀行は抹消してくれないの?」という不満をよく耳にしますが、銀行などの金融機関は、貸した資金が返済されることだけに関心があり、用済みになった抵当権の登記が抹消されても、放置されても影響を受けないのです。

抵当権抹消が必要な理由

では、なぜ抵当権の抹消は重要なのでしょうか?

田中さんが叔父から教えてもらった重要ポイントは以下の通りです:

  1. 不動産売却の障害になる:抵当権が残っていると、将来土地建物を売却する際に買い手がつきません
  2. 相続時のトラブル:所有者が亡くなり相続が始まったとき、古い抵当権登記の存在で手続きが複雑になります
  3. 手続きの期限:完済後に銀行から送られてくる必要書類には、有効期限があるものがあります。期限が過ぎると再取得が必要になります

恐ろしい実例~100年前の抵当権~

司法書士として私が経験した中で、最も古い抵当権の抹消は、なんと100年近く前の大正15年に設定された神奈川県農工銀行のものでした。

依頼者の方の祖父の代に設定されたものを、現在まで放置していたとのこと。その土地を売却することになって、初めて抵当権の存在に気づいたのです。

ここまで古くなると、抹消登記のための証明書類を集めるのも一苦労。そもそも神奈川県農工銀行は現在存在しませんし、返済が終わった証拠も何もありません。

数カ月の調査の末、神奈川県農工銀行が様々な変更や合併を経て、現在のみずほ銀行に受け継がれていることが判明。みずほ銀行に照会したところ、確かに権利を承継しているものの、貸付金の残高記録すらもはや存在しないとのことでした。

結局、抵当権者をみずほ銀行に変更することと、併せて抵当権を放棄する旨の書類を発行してもらい、無事抹消登記を完了させることができました。

このように、何とか最終的に抹消登記ができたとしても、その費用は通常の何倍にもなります。場合によっては、事実上抵当権の抹消が不可能になることもあり、そうなると土地建物の資産価値も大幅に下落してしまいます。

田中さんの決断

「そんな大変なことになるのね。でも、どうすればいいの?」と田中さん。

叔父さんは「完済証明書をもらったら、できるだけ早く司法書士に相談して抵当権抹消の手続きをするといいよ」とアドバイスしました。

田中さんは早速、銀行から届いた書類を確認。完済証明書のほか、登記識別情報など、抵当権抹消に必要な書類が同封されていました。司法書士に相談し、抵当権抹消登記の手続きを依頼することにしました。

「本当にマイホームが私たちのものになるのは、この抹消登記が終わってからなのね」と田中さん。大切な資産を守るため、最後の一歩を踏み出しました。

住宅ローン完済後のチェックリスト

住宅ローンの返済が終わり、口座からの引き落としがなくなると、つい忘れがちな抵当権抹消登記。しかし、何もしないのに抵当権登記が自動的に消えることはありません。

「住宅ローンを返し終わったら、できるだけ早く抵当権を抹消しましょう!」

ローン完済後のチェックリスト:

  • 銀行から送られてくる完済証明書などの書類を確認する
  • 司法書士に抵当権抹消登記の相談をする
  • 期限のある書類は早めに手続きを進める

住宅ローンの返済が終わった方、または終わりに近づいている方は、今一度、抵当権抹消の手続きについて考えてみてください。

将来のトラブルを防ぐための、最後の大切な一歩です。

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